よみがえりのレシピ

ドキュメンタリー映画「よみがえりのレシピ」公式サイト

奥田政行シェフと中沢新一さんとの記者会見の様子

  1. 10月2日(火)、東京・銀座のヤマガタ サンダンデロにて、山形発のドキュメンタリー映画『よみがえりのレシピ』の公式記者会見が行われました。

登壇者は、渡辺智史監督、奥田政行シェフ(「アル・ケッチァーノ」「イル・ケッチァーノ」「山形サンダンデロ」オーナーシェフ、映画『よみがえりのレシピ』出演者)、中沢新一さん(野生の科学研究所所長・明治大学特任教授)で、料理人から見た山形の地形・風土・歴史見解に、文化人類学的な知見が加わり、笑いあり驚きあり未来への発展ありの、充実した会見となりました。



(取材・文/北原まどか)

 

在来作物の宝庫、山形県鶴岡市で生まれ育ったドキュメンタリー映像作家・渡辺智史監督。山形の在来作物と山河海の幸で独創的な料理をつくる奥田シェフ、そして山形とゆかりの深い哲学者・文化人類学者で明治大学特任教授の中沢新一さん。世代も背景も異なる3人が、それぞれ山形の魅力を語ることから始まった記者会見。

まず、奥田シェフは「山形は日本でいちばん四季がはっきりしています。月山、鳥海山など山に降った雨が川となり、山形県内を通ってきた最上川が日本三大砂丘の庄内平野に流れ込みます。出羽三山の農耕信仰により全国から種が集まり、また新しい種の開発期間もあります。作物の多さは世界の中でもトップクラスで、過去・現在・未来の食材が使える」と、料理人にとっては理想の土地であると山形を評価しました。



羽黒山での修験道をきっかけに山形との縁を結んできた中沢新一さんは、最上地方の大蔵村という山深い地に滞在していた際に、地元民が持ち寄る料理に感動し、山形の食の豊かさにふれたといいます。「だだ茶豆を初めて食べた時は、こんなに美味い食べ物を食べたことはない!と驚いた。山形は世界中で作物の多様性においても一つひとつのクオリティの高さも、特に素晴らしい」と絶賛しました。

話は盛り上がり、奥田シェフの「生産者のことを思い浮かべ、野菜と会話して、畑の香りや食材の音などから連想し、素材をつなげていく」という独特の調理法や、物々交換で幸せの交換をする独自の経済感覚に及びます。

「庄内にはお裾分けの文化と、江戸時代から取り残された精神文化もあり、あまりお金に固執しません。生産者が野菜を持ってきた時には、ある程度の生活費までは店でも補償するが、それ以上すると贅沢になるので、その後は幸せの交換をやっています。野菜と料理の物々交換です。店に空席があれば“食べに来なよ”と電話して、子どもまで食べさせる。だから、アル・ケッチァーノはいつも満席なんです(笑)」(奥田シェフ)

中沢さんは「在来作物は太陽、土、水の恵みと人間が一体になっていて、自然の恵みをもらう知恵や体系、遺伝子が残っている。その復活をリードしたのが料理人というのが、とても未来が拓ける話だと思う。奥田さんの料理は人類学的に分析するとおもしろい。本を書きたいと思うくらい!」と衝撃発言が飛び出すなど、終始、トークは和気あいあいと進行しました。

中沢さんは「庄内藩が幕末に負け組になったことがいまの山形の豊かさの根源で、敗者がいかに立ち直り豊かな世界を再構築していったのかを学ぶことが、これが何十年後かの日本の勝利の礎になるはず」と力説しました。

渡辺監督はこの映画のタイトルを『よみがえりのレシピ』とした意味を、こう語りました。

「東北地方では冬の間半年くらい作物が採れず、食料が不足して“飢え”が身近にあった負の側面を身にしみて感じていて、在来作物は冬場の漬け物や“かてめし”として残ってきました。だからこそ今なお160品目もの在来作物が存在し、再発見されているのだと思います」

それが料理や食文化というポジティブな形で再構築されているのが、いまの山形、食の都・庄内の姿だと言います。

「映画のタイトルでもある“よみがえり”という言葉の意味は、在来作物を食べて記憶や何か懐かしいものがよみがえるだけでなく、地域そのものがよみがえってきている姿を奥田さんや江頭先生の活動から導き出したかった。ローカルフードはこれからどんどん輝いていく」と渡辺監督。

食の都・庄内の輝きを全国、そして世界に放ち、日本全国にローカライゼーションの種をまいていく。日本全国に「よみがえりのレシピ」が生まれ、再構築される新しい時代のキックオフとも言える、歴史的な記者会見となりました。